『2005/5月 第334回 読書会の報告』

 5月29日 随筆集『幸福への招待』

 芹沢光治良文学館11「エッセイと 文学と人生」

 新潮社 平成9年6月10日発行

 司会:小川洋子  参加者:25名

 

『参加者の発言より』

お互い励まし会って成長しようとするタイミングが婚期では?

現在では、男性が家庭生活できるように準備する必要があるのでは?

この作品はS23年に書かれている、平成の時代に先生がお書きになるとずいぶんと

変ったのでは?

ある女性の方で、私が結婚した男性は、私が一番愛した人ではなかったが、私を一番

愛してくれた人でした。

人が人を生み育てる。

自分の結婚と娘の結婚の違いを考えさせられた。

 親として娘達に芹沢精神を伝えていなかったのかなあー。

現在は、以下の問題がある。(福祉に関係している男性より)

  〇結婚しない、子供を持たない若者が多い。(少子化の問題)

  〇結婚は晩年ための幸せを約束できない。

  ・夫が定年を迎えるときが危機1(熟年離婚)

  ・どちらかが倒れたときの危機2(介護の大変さ)

   男性が介護する場合、やさしく献身的であるが、女性が介護する場合は早く逝ってほしいと

   思うらしい。(発言者曰く、男性はやさしい)

社会では、「結婚」は人間を価値判断する線引きになっている。(独身男性より) 

結婚は、一歩間違えれば、「天国」「地獄」である。

現在は、結婚が軽くなってきた。(簡単に離婚できる)

お互いに、どんなゴールを目指すのか話し合っているのでしょうか?

今からでも遅くないからお互いに話す事が大切ではないでしょうか・

娘が結婚するが、なぜお互いを選んだのかと聞くと

 「お互いに笑うツボが一緒だったから」と…。

・親として、子供達の結婚相手として、「話しをして楽しい人」と結婚してほしい。

など、素晴らしい結婚を完成させている方、これから結婚を考えている方、これからどのような結婚生活を作り上げていこうとする方など自分の生活から滲みでたお話が聞けて、私としては大変参考になりました。

 

『「幸福への招待」のキーワード』

・作品「結婚」を書くにためにどんな事を考えるのか、考えた事がどのくらいしか面に出ないか知ることも一興である。

@結婚は人生の目的ではない

男は良い職業につくための教育

女は良い結婚をするための教育(良妻賢母)

結婚しないからと言っても女性の生き甲斐がないのではなく、又、不幸でもない。

A結婚の準備はいらない

人間として完成し、高い教養を持っていれば、結婚の準備の必要はない。

若い女性も、結婚など念頭におかずに、先ず好きな勉強をするに限る。個性を生かしきってみる事だ。これが、自己に対する第一の義務である。 好きな道に生きられるばかりでなく、人間としても向上し女性としても頼もしいい人柄が作られる。

B婚期と年齢

男性が若い女性、女性が年老いた男性を選ぶ事は、結婚が二人で協力して建設して行くものであり、協力して建設するところに結婚の喜びがある。ことに気付かない不幸な人である。

C恋愛結婚と見合い結婚

結婚とは、結婚式のことではなく、長い生涯の二人の生活である。

バルザックは、ハンスカ夫人を愛して結婚した事で、偉大にも幸福にもなった。

結婚と言うものは、その成立が恋愛、見合いかによって幸不幸が決定するのではなく、その幸不幸

は長い結婚生活の間の,お互いの信頼と愛の努力にかかっている。

D恋愛について

本当の恋愛のできるためには、教養をたかめ、聡明でなければならない。

立派な恋愛をすることで人間が作られ、磨かれもする。

立派な恋愛とは、愛することによって相手をも自分をもたかめるような無償の愛の行為である

E男女交際

努力しても青年の心を掴むことができなければ、自分の不運として不幸を耐えて青年の幸福を祝福

できたのに、それを怠ったのは、自分が不忠実である。

 ・自由な男女の交際から起きる過失を無くすために、家庭的な交際ができないものか?

F肉体を大事にすること

戦後、人間的な開放にあい、人間尊重にめざめたのであるから、己の生命を大切にし,己の肉体を慈しまなければならない。

処女性自身も尊いが、未来の夫のために処女性を守るという精神的努力―心の処女性こそ、結婚には大切ではなかろうか。

日本人は、本当の恋愛を知らないで、惚れると言う言葉で表すような浄い(きよい)ものか、痴情小説のような肉の臭気の強いものしか知らない。  従って、自己の肉体も他人の肉体も大切にすることを知らない。

G結婚について

恋愛は、周囲を考慮しないで利己的ながりがり亡者になる欠点がある。

自分達も幸福になることで、周囲をも幸福にできるような結婚こそ願わしいものである。

結婚に障害があったら、絶望しないであきらめないで、バルザックのように25年も待つ覚悟をすれば良い。 恋愛にはそれだけの価値がある。

H集団見合と新聞広告

I職業婦人と結婚

仕事を持つ女性は、一般に生活にはりがあり、夫の仕事に同情と理解を持ち、家庭をうまく切り盛りして行くのではないか

J新しい結婚

毎年結婚記念日に、二人で一泊旅行をする事は、年々結婚にたいする決意を新たにして、新鮮な喜びではなかろうか

結婚した男女は、結婚(家族)という作品を作るために共同する作家の役割と責任を引き受けた芸術家同士のようなものである。

この作品が,傑作になるか,未完成になるかは、二人の協力いかんである。

作品「結婚」:若い主人公の幸福そうな結婚生活をも書いたが、それ以上に両親の不幸な結婚生活を書いた。両親の結婚生活が破壊される背景を前に、若い結婚生活の始まる事を書いて、結婚が一生涯の仕事である事を暗示した。

両親も愛し合って結婚したのに、未完に終り、二十年後には、不幸に判れなければならなかったのは,どう言う訳かを、若い夫婦の結婚についての態度によって書いたつもりである。

男性は、女性の愛情だけに生きては幸福になれないが、女性は男性の愛情だけに生きて幸福になれるばかりではなく男性の愛情がなければ幸福になれない

K計画的生活

妻にとっては、母になる事で結婚の第一の幸福が満たされるかもしれない。

L姑と嫁

美点を見ているより他にない。 姑は嫁を静かに見守ってやり、嫁の成長を待つような気長な心になってやるべきであろう。

Mどちらかに過失が起きた場合

お互いの欠点が目につきだす時期がある。これが、第一の危機かもしれない。 人間は未完成で欠点の多いものだということを思わなければならない。

その欠点が長所の裏打ちのようなものであることを思い、その欠点をお互いに直す努力と庇護しあわなければならない。

夫が妻を裏切った場合、嫉妬心を押さえて夫と苦しみを分かち、その問題を夫とともに解決するように努力することで不幸を未然に防ぎたいものだ。

作品「結婚」;母親が父親の不幸や苦悶を自分のものとして、優しく処理するほどの慈悲があったら離婚しないですんだであろう。

父親の過失が表に出たときに、協力する事を忘れて、許しあえない敵になってしまった。それは母親が最後まで父親を愛しているからだが、聡明でなかったため、その愛を悲しい刃として父親をも自分をも傷つけてしまった。

妻が夫を裏切った場合、すぐ離婚を考えるのではなく、許すばかりでなく、大きな翼の下に庇護してやれないものだろうか? お互い死ぬ運命を背負った人間である事を思うとき、許しあい、労わりあって(いたわり)墓場まで辿りつきたいものである。

N妻も家庭の外を見るがいい

女性は結婚した時で成長が止まるといわれる. 妻が夫と共に進歩しないことから夫婦の間に溝が掘られる。

夫が他人である事を発見する。

O幸福な結婚の秘訣

夫と妻が作品に向かう芸術家になればいい。芸術家は作品のためにあらゆる苦労にたえてゆるまない努力をする。

製作した家が満足するものであれば、それを二人で眺める時の幸福も大きかろう。

私は、結婚の幸福は晩年に迎えるものだと思う。

人生は様々な経験をするが、信じられるものは、生涯生活を共にした者の愛情の記憶だけかもしれない。

作品「結婚」:父親が母親を愛し切れなかった贖罪(しょくざい)を、新しい結婚でしなければならないが、母親は父親を死んだものとみなして、娘の元で、かえって平安な晩年を迎えた所に、共同制作に失敗した芸術家の淋しさを読者は読み取ってくれるだろうか?

共同して結婚を完成した人々を眺めるのは、美しい作品を見るように感動的である。

@父は母のなきがらをきよめながら「ああご苦労でした、ご苦労でした」それは、感謝と愛情を込めた響きで、私の魂をゆすぶった。

Aタイタニック号の老夫婦「今助かろうとしても、二人が助かるかどうか分りません。一人溺死(できし)して一人が助かった場合には、その後生きていく力があるか分りません。すなおに二人でお召し(おめし)にあずかります」(主よ身元に近づかん)

『結婚とは、二人が生涯かけて共同制作する芸術である。その作品を傑作にするには、二人がたゆまず努力して協力しなければならない。』

 

『結婚は青春のためにではなく晩年のために幸福を予約する。』

 

以上