『2004/11月 第32回 読書会の報告』
 11月28日 長編小説『春の谷間』
 スタイル 昭和25年6月号〜昭和26年5月号 
 芹沢光治良文学館6 「一つの世界」 新潮社 平成8年8月10日発行
 司会:清水美穂  参加者:20名

 

 前半に続き、みさ子の才能と生活態度に話が及ぶが、前半と違い若子の

婚約結婚がみさ子の結婚生活を振り替えさせ、女性の仕事と家庭の両立の難しさ、又は、才能を伸ばすことの困難にまで活発な意見が及んだ。

 若子はあまりにも理想的すぎる女性として描かれているが、それでも、みさ子の自分本位な生き方は、人間的ではあるが、母性愛も感じられず親としての責任感も希薄に見える。夫婦の会話も少なく、若子との対比によって不幸に見えるが、では、どうすれば、みさ子は幸福になれたのか。

女性として母として、当たり前のことが出来なくては、悲劇的な結果になるのではないか。今の環境を活かし、現実に足をつけて自分を活かす工夫が必要だったのではないか。夫婦として相手を思いやることが大切だ。と、いろいろな意見が出たが、そうではなく、今このままの状態が、じつはみさ子にとって幸福な状態ではないのか、と言う意見もあった。夫の庇護の元、ナイトのような男性を側に置き、自分の才能を伸ばすことだけを考えていられるこの状態が、みさ子には幸福と言えるのかも知れない。

この時代には、あまりにも新しい女性像なのだろう。フランス的という意見もあり、日本では才能の芽を育てることの大変さを感じるという意見もあった。

 また、みさ子に寛大な夫 健次に愛はあるのか、という疑問に活発な意見が出た。関係修復を願うみさ子の手紙に、健次の手紙は、君を庇護し君のなすがままを承認している。僕では飽きたらず去りたければ遠慮無く去ればよい、とある。この文章に愛を感じる、と言う意見と、別れたければ別れるなどと愛がない、と言う意見があった。感じ方は人それぞれで、結論などは出しようもないが、同じ文章にまったく逆な感想を持ち、それを議論しあえる読書会のおもしろさを改めて感じられる会となった。