いつも送られてくる愛好会の封筒の様子が変わっていて、あれっと思っていたら、その封筒も大きくふくらんでいる。何かと思って開封したら、野沢朝子著「山荘」が入っておりました。
早速、袋から取り出し、「はじめより」から読みました。
この「山荘」は短歌が読まれたあと、野沢氏の文章が続く形です。
病みてより こころ弱りて山荘に
父の香のこる 机持ちてあり
この短歌のあと、山荘の芹沢光治良先生の机に座っている野沢氏が語ります。それらの言葉は、モノローグのように山荘の扉を開けて、私達を「山荘」にいざなってくれます。
文章の確かさから、読み進めて行くうちに気がつくことがありました。それはこの本から出てくる「優しさ」です。私は、どこかで感じたことがある「優しさ」です。この「優しさ」は何かと、仕事に行く途中、食事をしながら、音楽を聞いている時、この優しさってどこで出会ったのだろうと考え続けました。
そしたら、それはいつも私が芹沢光治良作品を読んで感じていたのと同じものだったのです。
その優しさとは、「芹沢光治良の目線」です。芹沢光治良先生の優しい目線が、芹沢作品の中に私達読者は感じています。主人公の時もあれば、ほんの脇役の時もあります。その目線が芹沢光治良氏の魅力だと思っています。
私達に驕りを生まないように私に警告を出してくれたり、日々の生活の中で気をつけようと感じ入るのです。
野沢氏の立場で書かれているのに父上の芹沢光治良氏の暖かい目線を特に感じるのは、この短歌で始まる所です。
あたたかき父の手添ふる病床に
もみぢ燃え立ち吾はめざむる
この文章は「人間の運命」で、有名な(関係者の皆様、すいません)場面です。
先の戦争で東京が空襲になり、山荘に疎開した家族に起こる大きな事件です。戦争が終わってホッとしたのは、森次郎という家族だけではなく、読者もまさしくそうでした。それも束の間、戦争という大きなフレーズの頂点を次女の大きな病気という事で読者に大きな緊張をうみます。
この事件を森次郎からではなく、その娘さんのお気持ちを私達読者が読むことが出来るというのは、読者として人間の運命を読み深める事につながります。また、一つの作品の「野沢朝子の目線」と言うのでしょうか?この時、娘さんはどういうふうに感じていたか、関心を持って読み進めて行きました。
ところが、野沢氏の確たる文章を読み進めてみると芹沢光治良先生の目線を感じるのです。書いているのは、野沢氏ですけど、読み感じる私には、芹沢光治良氏の目線を暖かく感じるのです。
この「山荘」では野沢氏の夫も登場します。お話したことがありますが、教養深いという言葉よりは、何でも知っていると表現していいのではないでしょうか?
お医者様という科学者でありながら、漢字の素養や文学についてかなりのものを持って現代文学では、山荘で芹沢光治良先生といろいろお話をされたのではないかと思っています。
野沢朝子氏が夫に書かれた文章は、暖かい目線に溢れています。まさしく芹沢光治良氏の優しさを体現されたと思います。
すばらしい本です。感動を伴って読みました。「芹沢光治良の目線」を忘れない野沢朝子氏。感謝でいっぱいです。
封筒によってイメージが変わるのですね。新しい封筒も歓迎です。ありがとうございました。