人間の運命を読んでいると、明治時代の日本社会を垣間見ることが出来る。私達が、今ここで生きているには、 羽鳥先生が話されているように明治の立志の時代風潮が、『人間の運命』の森次郎にも影響を与えていたのだろう。
『人間の運命』は時代の貧しさが書かれています。「東京の人」が、森次郎の漁村に来て、 ブラジルへの移住をアメリカへの移住と騙すところがあります。
この事実関係は、芹沢先生が書かれています。
中学生の時、故郷の漁村で、狩野川の渡しの先頭の家の二階に、「東京の人」という老夫婦が、二、三年暮らしていた。 何処へ行くにも夫婦一緒だと評判だった。この夫婦に騙されて、四軒の漁師がアメリカに移住した。
村は貧しく、不景気なので、誰も移住を望んだが、費用がかかるので、四軒しか移住できなかった。四軒とも豊かな方で、 家と舟との所有者であったが、全部売り払って費用をつくった。その四軒を村中で羨望した。
半年ばかりの後、その一軒の関係者から、アメリカへ出す返事の表紙に、英語でアドレスを書いてくれと、私は頼まれた。しかし、 差出人のアドレスはアメリカではなくて、ブラジルだった。ブラジルは南アメリカにあるが、アメリカ合衆国ではないことを説明したが、 相手は私の説明を信じなかった。
翌日学校でチリの先生に話したところ、下校する時、学校の小さな地球儀を持ち帰って、よく説明してやれと注意を受けた。それ故、 帰宅するなり、その家を行って、地球儀を見せ、アメリカとブラジルのちがうことや、アメリカへの移住は幸福を予約されるが、ブラジルの方は、 日本の生活より苦しいことを、先生からから聞いたとおりに説明した。
その夜、四軒の関係者がそろって私を訪ねて来た。 (続く)